「大丈夫ですか?」
うつ伏せの男に駆け寄り、声をかけてみる。
「大丈夫だ・・・」
と男が頭を起こす。顔は見えないけれど、声からすると、若い男のようだ。
「・・・と? おまえは・・・」
うつ伏せの男が、体を起こしこちらに顔を向ける。
17のオレよりは年長そうだが、やはり、若い。
「オレは、朝日輝といいます」
「アサヒアキラか。しかし、ワシ、名前は、聞いてないけどな」
「えっ?」
「おまえは、バカか? と聞こうとはしたが」
「初対面の、オレに、ですか?」
「そうだ」
「なぜ、っすか?」
「なぜと、聞いたか? 今」
「はい」
「やっぱり、おまえは、バカだ。この状態で、・・・屋根から落ちて、頭から雪に埋まって、出ようともがいていたら、突然足を引っ張られた挙句、投げ飛ばされ、ふっ飛び、また雪に埋もれるハメになったワシが、大丈夫だと思うのか? 投げ飛ばさなくても、掘ればいいだろう? ワシの周りを」
「そう言われれば・・・」
そんな状態で、大丈夫なハズがない。
「どこか、傷めました?」
「いや、・・・大丈夫」
って、どれだけややこしい人なんだ!
大丈夫なら、オレは、すぐにでもおいとましたい。
こんなタイプの人とは、あまり、かかわりたくない。
が、そうもいかないのがツライところだ。
「あの、じつは、オレ」
まずは、アプローチだ。
「話すのか? 身の上話。初対面のワシに?」
「話しません!」
「なんだ、話さないのか」
「聞きたいんですか? 初対面のオレの身の上話」
「聞きたくはない。が、」
と、言葉をためて、若い男は立ち上がる。背は165センチのオレより、かなり高い。
「が、なんですか?」
「どうしても、話したいなら、聞いてやらないこともない」
体に付いた雪をはたきながら、男は、また、ややこしいことを言う。
ああ、帰りたい。
けど、帰れない。