猫アンテナ狂想曲(1/15)

文・朝日千稀   絵・木ナコネコ

「身の上話は、もっと知り合ってからさせてもらいます」
それよりも、と、息を吸い、
「ここにいるはずなんです。猫です。胸と足先に白い毛の混じった小柄な雌の黒猫です。赤い首輪をしています」
言いたいことを、一気に吐き出す。
そうでもしなければ、この男との会話、100年経っても、先に進みそうにない。
「ああ、いる」
そう言う男の歯切れは、悪い。
「連れて帰ります」
「それは、いやだ」
「いやだと言われても」
「連れて帰るんだろ?」
と、男が睨むので、
「はい」
オレは大きくうなずいた。

「そうか」
男は、視線を空に向け、しばらくしてから、おもむろにオレに視線をもどす。
「じゃあ、とにかく、家に入って、ぜんざいでも食おう」
じゃあ、とにかく?
どうして、そうなる?
男の思考回路はわからない。
けど、口が勝手に言ってしまった。
「はい! ごちそうになります!」
だって、オレ、ぜんざい大好きなんだ・・・。
でも、そんなことでいいのか?
「やっぱり、いいです。ぜんざいは次の機会にさせてもらいます」
「春夏秋冬、ぜんざいはうまい! しかし、冬のぜんざいに勝るものなし!」
「同感です!」
「だろ?」

朝日千稀 について

(あさひ かづき)福井県福井市在住。3猫(にゃん)と一緒なら、いつまでもグータラしていられる

木ナコネコ について

(きなこねこ)福井生まれ、大阪住まい。福井訛りの謎の関西弁が特徴。猫と珈琲と旅が好き。