5 猫アンテナ
ふくふく亭の暖簾をくぐる。
店の中は、がらがらだ。
昼ごはんどきだというのに、お客はオレたちふたりだけ。
カウンターに、猿神さんと並んで座る。
見回すと、床や壁は油でぎとぎとしている。
「なんでも好きなものを注文していいぞ」
と渡されたメニューも、白い紙が薄茶色に変色している。
「どれにしようかな・・・」
決めかねていると、
「福来さん、こいつにスペシャルを!」
猿神さんが注文をしてくれた。
「はいよ! ふくふく絶品味噌ラーメン野菜炒め乗せね。探偵さんはどうするね?」
「ああ、ワシはけっこうです。これをいただきます」
猿神さんは、自販機で買ったビールを掲げて見せる。
「はい、一丁あがり!」
と出てきた味噌ラーメンは、激しく不味かった。
絶叫悶絶味噌モドキラーメンくたくた野菜乗せと言うべき代物だった。
味噌なのか、醤油なのか、薄い茶色のスープは、ほとんど味がない。
柔らかすぎる麺の上、乗せられた甘い味付けの野菜はシャキシャキ感をまったく失い、くたびれきっている。
残そうか…、と箸を止めたら、
「食べ物を粗末にすると、もったいないお化けが出るぞ」
猿神さんが耳元でささやいた。
「はあ」
「それに、残すと作った人に悪いだろう」
仕方なく、世の中に、ここまで不味い食べ物があったんだなー、感心しつつ完食する。
「な?」
猿神さんの目が笑う。
「なにが、な? なんでしょうか?」
「受けるだろ。ナンバーワンのその不味さ」
耳元で、猿神さんがささやいた。
「話のタネにもなりそうだろ? 探偵を目指すなら、話題も豊富にしておくべきだ」
猿神さんの目は、まだ笑っている。
「オレ、目指してませんから!」
という反論、涼やかに無視を決め、
「では、食ったところで」
と猿神さんは前置いた。