「オレの父親は、キャットフードの開発者なんです。じつは、オレ、こどもの頃に、父親のカバンに入っていたキャットフードに手を出してしまいまして」
「手を出したって、食ったのか?」
「はい。それが、とても、美味くて、大量に食べてしまいました。で、その夜、突然笑いだし、バタンと倒れ、そのまま2日間、爆睡したそうです。以来、どういうわけか、猫の写真をながめていると、その猫に照準ぴたりと当てたアンテナが、頭の中に立つんです」
相変わらず客がまるで入って来ない店のカウンターで、オレは、身の上を語り終えた。
すると、猿神さんが、オレに向かってくいくいと手を突き出した。
「すごいじゃないか!」
「信じる、んですか?」
信じる人がいるってことが、信じられない。
「嘘なのか?」
「ホントです」
猿神さんって、ややこしくって、強引で、訳のわからない変人かと思っていたが、じつは、独自の物差しを持った、懐の深い人かもしれない。
「では、改めて」
猿神さんの手がなおも迫る。
「改めてって?」
迫る手から、思わず逃げる。
「猿神探偵事務所にようこそ! 喜べ! 合格だ! 今からおまえは正式に猿神探偵事務所所長、猿神寅卯の第1助手だ!」
オレの手を無理くり捉え、猿神さんが握手した。
がオレは、まったく展開が、飲み込めない。
合格だ! と言われても、面接した覚えはない。