『おいらはケネルキャットサスケ』(佼成出版社刊)を振り返って
私の心は、はちきれんばかりに高ぶっていた。
本書を書くのに何年待ったことだろうか。出版できたらもう思い残すことはない、そんな気持ちでもあった。
会社勤めの身なので書くのは週末。土・日に、吉祥寺界隈のカフェで一心不乱に書いた。
本書の舞台である関西盲導犬協会は長年ボランティア活動で、何度も訪問している。どこに何があるか手に取るように把握している。だから筆はどんどん進んだ。原稿は締め切りに十分間に合った。自分としても満足の出来。ところが・・・。
窓口の関西盲導犬協会から「クイールのユーザーさんの遺族をそっとしてあげたい」という連絡。盲導犬クイールとユーザーさんの別れのシーン、本書の中で盛り上がる大事な部分だ。ここを削除、しかもクイールの登場すらも見合わせたいという。
それはゆずれない。クイールあっての主人公のサスケ。でも無理を通して、遺族を悲しませては書き手失格だ・・・。
そこで代替案を編集担当の小山菜穂子さんに提出。出産を控える身重の彼女は、多数の関係者に連絡を取り、クイールが作品に登場できるよう交渉してくれたのだ。ありがたかった。小山さんや編集部の皆さんの期待に応えるべく、2章分を一気に書きなおした。元の原稿より良くなるように。はたして原稿はOKとなり、無事出版の運びとなった。
書き手は、自分の力だけで作品を生み出せるのではない。担当編集者や出版社の理解や支えがあってのことだと痛感した。多くの方に支えてもらい、書き手冥利に尽きる仕事であった。
(『児童文芸』2013年2・3月号「この一冊ができるまで」より)
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