3つの願い(2/5)

文・伊藤由美  

2 1つ目の願い

あるいは・・・。
「あれは魔女ではなく、ただのじょうだん好きのばあさんで、おれはかつがれただけかもしれない」
でも、あらためて指輪を見ると、根でもはえたようにぴったりと指にすいつき、あやしいかがやきを放っています。とてもただの指輪には思えません。

「この場で、指ごと、切り落としてしまおうか・・・?」
セムは、ふところから、おずおずと、ナイフを取り出しました。
でも、なかなか、決心がつかず、さんざん迷ったあげくに、セムは、とうとう、ナイフを引っこめてしまいました。

「ばかばかしい。痛い思いをして、一生、9本指で過ごすなんて。それより、もっと、簡単な方法があるぞ。何のことはない、死ぬまで、願い事をしなければいいんだ。ようし、おれは、こんりんざい、何も願わないぞ」
そうと決まれば、何も悩むことはありません。セムは、元気よく、歩き出しました。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに