「こんにちは。悪いが、水をいっぱい、もらえないだろうか? 長旅で、のどがからからなんですよ」
おかみさんたちは、びっくりして、ふり返りました。そして、最初は、きたないなりのセムをあやしんで、じっと、固まっていました
が、もともと、お人好しで、知りたがり屋のおかみさんたちのことです。
「いいとも、兵隊さん。こっちへ来て、たんとお飲みよ」
と、だれからともなしに、セムを、おしゃべりの輪の中にさそい、ひしゃくで水をすすめました。
それから、
「兵隊さんはどこから来たんだい?」
「あっちでは戦争はひどかったかい?」
「道々の村や町の様子はどんなだい?」
などと、聞き始めました。
「生まれはどこだい?」
「親きょうだいはいるのかい?」
「これからどこへ行くんだい?」
セムが水を飲む間も、質問はひっきりなしです。