やがて、ひつぎは村の墓地(ぼち)に運ばれ、墓穴(はかあな)に下ろされました。
最後のお別れをして、ぼちぼちと、人々が去った後、2人の墓守(はかもり)だけが残りました。これから、ひつぎに土をかぶせるのです。
「さあ、やってしまおうじゃないか!」
若い墓守が、年かさの墓守に言いました。
年かさの墓守は、シャベルにもたれてつっ立ったまま、いつまでたっても、仕事を始めようとしないからです。
「まあ、そう、あわてるなよ。まだ、あそこに人がいるじゃないか。何をやってるんだろうなあ。花でも、つんで帰ろうというのか?」
「人が、まだ、いようが、いまいが、関係ないじゃないか! さっさと、片付けないと、もうすぐ、暗くなるんだぞ!」
若い墓守は、いらいらと、沈みかけている夕陽をふり返り、シャベルで土をすくい始めました。
「おい、待てよ」
年かさが止めました。
「おまえは聞いたことがねえのか、セムじいさんのひみつのうわさを?」
「ひみつ? どんなひみつだい?」
「魔法の指輪だよ」
年かさの墓守は、声をひそめました。
「魔法の指輪?」
「ああ。じいさんの家が栄えたのも、息子や娘たちに恵まれたのも、みな、じいさんの指に光っている金色の指輪のおかげだって話だ」
「ははは。まさか」