3つの願い(4/5)

文・伊藤由美  

若者は疑いましたが、年かさの墓守はゆずりません。
「考えてもみろよ。もともと、セムって男は村の者じゃねえ。流れ者の兵隊だったんだ。それが、先代のモレにひろわれてから、あれよあれよという間に、この辺り一番の大百姓だ。魔法でも使わなきゃ、あり得ねえだろ?」
「ううん、しかし・・・」
「おれは見たんだよ」
年かさが、ますます、小声になって、若者の耳にささやきます。

「葬式で、いよいよ、ひつぎのふたをしめようって時、あととり息子が、じいさんの指から、指輪をはずそうとしたんだ。ところが、小枝みてえに細っこいじいさんの指から、どんなにがんばっても、指輪がぬけなかったんだ。だからな・・・」
「だから?」
「だから、指輪は、まだ、ひつぎの中だってことだ」
「・・・だから?」
「にぶいやつだな。人の願いをかなえる魔法の指輪が、おれたちの足下にあるってことだよ」

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに