年かさの男は、そう言って、ナイフをにぎって、ひとり、墓穴に飛び下りました。そして、ひつぎのふたを開けようとしましたが、なかなか、開きません。
「ううむ、なんて重いふたなんだ。おい、手伝ってくれ!」
年かさの墓守が若い方を見上げると、若い方が、真っ青な顔で、宙をにらんでいます。
「どうしたんだ?」
「あれ! あれ!」
声をしぼりだして、若者が指さす方をふり返ると、穴の上に、黒ずきんの老婆が、血のような目で、こちらを見下ろしているではありませんか!
「うわわあ!」
年かさの墓守は、その場で、こしをぬかしてしまいました。
老婆は、そんなことにはかまわずに、トンと、墓穴に下りてきました。そして、ひつぎのふたを、カタンと、開けると、セムのなきがらから、金の指輪を、するりと、ぬき取りました。
それから、とがったつめの先で、セムの片方の目も、くるりっと、抜き出し、ふわっと、墓穴の外に、飛び上がりました。
その間中、2人の男は、おそろしさで、声も出ず、動くこともできません。
老婆は、少しの間、目玉を、ピカピカと、夕陽にかざして、見ていましたが、
「ふん、結局、これっぽっちかい」
と、それをふところにしまいました。
そして、ガタガタとふるえる2人の男を残して、真っ赤な夕焼けの中に消えて行ったのでした。