さて、いよいよ待ちに待ったオーディションの朝になりました。会場までダイアンのお父さんの車でいっしょに行く予定です。
いつもより早く起きたソラは、朝ごはんをしっかり食べ、歯みがきをていねいにし、鏡に向かってスマイルの練習をしました。
「よし! 大じょうぶ! がんばれ!」
鏡の中のソラにソラが喝をいれていると、
「ソラ、ちょっと来て」
と、リビングからママのしずんだ声が聞こえてきました。
リビングに行くと、ママとパパが心配そうにソラを見ました。
「ダイアン、ねんざしちゃったらしいの」
「・・・」
キョトンとするソラ。びっくりしすぎて声がでません。
「パパの車で行こう。忘れ物はないか?」
パパがソラのナップザックを持ち上げました。ソラはあわててパパの手をおさえました。
「待って! ダイアンは?」
「うぅ・・・む」
パパは低い声でうなりました。
「ママ、ダイアンは行けないの?」
「ねんざしちゃったんだもの。ムリよ」
悲しい顔でママがうなづきました。
「よっし! ダイアンのぶんもがんばろう! さぁ」
パパがソラの手をひっぱろうとしたしゅんかん、ソラはその手をはらいのけました。
「ボク・・・行かない。行けないよ・・・」
ソラの声はふるえています。困ったなという顔でパパとママが目配せしました。
「ソラ、本当に行かなくていいのか?」
パパは念をおすように聞きました。
「・・・」
ソラは答えることができませんでした。
「ダイアンはそれで喜ぶのかな?」
ソラはパパの目をジッとみたまま、口をギュッと結びました。
「心の底からやりたいと思わないなら、やめなさい」
パパがさびしそうにほほえみました。
「ちがうの! パパ、ちがうの!」
ソラの真っ黒なひとみからなみだがにじみでました。時計の音がカチカチと、やたらに大きく聞こえています。
ソラがやめればダイアンは責任を感じてしまうかもしれません。でも、ダイアンがいたから苦しい練習もがんばれた。ダイアンがいなければ、ソラがオーディションにチャレンジすることはなかった。ソラだけ行くのはダイアンに悪い気がします。というか、ダイアンがいないなんて心ぼそい! 一人だけで行くなんてできるわけがないのです。