1 コスモ博士、なやむ
五所河原 初(「ごしょがわら はつ」と読みます)さんは今年96歳。かくしゃくとして、とても元気です。
小がらだけど、もともと、とてもじょうぶで、しゅみも豊富。若い時には山登りが好きで、日本中、登っていない山はないくらいです。
みんなからは「ハツさん」と呼ばれています。
60歳を過ぎて始めた水泳は、シニアの部で、毎年、全国大会に出場し、80歳以上の部で、優勝したこともあります。
でも、さすがに、90歳を過ぎたくらいから、物忘れをするようになりました。
「あれはどこに置いたっけ?」
「あの人はどこのご近所さん?」
息子のコスモ氏が、このごろ、いちばん、困っていたのは、ハツさんが玄関の明かりセンサーのことを、すっぽり、忘れてしまうことでした。
ハツさんは、夜、玄関の明かりがひとりでにつく理由が、どうしても、納得できません。
「コスモや、玄関の明かりが消えませんよ」
それもそのはず、ハツさんが玄関に出て、明かりを見上げているものだから、センサーがハツさんがいることを感知して、ついたままなのです。
ずっとついたままなので、ハツさんは、ずっと、明かりを見上げています。だから、明かりは、ずっと、ついたまま。
「こしょうしたのね、きっと」
「ちがいますよ。センサーが母さんがいることを感知しているんですよ。母さんがそこをどけば、ひとりでに消えます。だから、つっ立っていないで、中に入ってくださいよ」
ハツさんが明かりセンサーのことで、ごちゃごちゃ、言い始めるたび、コスモ氏は、いっしょうけんめい、説明します。でも、ハツさんは、すぐに忘れてしまい、何度も、出たり、入ったりをくり返すのです。