つなぐ(4/10)

文・藤 紫子  

花束をかかえて駅にもどったおじいさんは、券売機でふたたび切符を買いました。
こんどは郊外に向かうのです。
切符をまた、上着の右がわの内ポケットにしまうと、ホームへ向かいました。
お客さんがほとんどいない列車が、出発のときを待っていました。
「空いていて助かるな」
とびらのすぐそばの席にそっと花束をおき、となりにこしかけたときです。

(んっ?)
お守りを取りだそうと、ポケットのなかに手を入れたところ、切符しかありませんでした。
仏だんから下ろした、あの、あたたかで優しい肌ざわりのお守りが手にふれないのです。

おじいさんは、上着の右がわをぱっと開けました。ポケットのなかをのぞきます。
暗くて見えません。
上着をぬぎました。
「入っていてくれぇ。入っていてくれぇ・・・」

藤 紫子 について

(ふじのゆかりこ) 札幌市生まれ。札幌市在住。季節風会員。小樽絵本・児童文学研究センター正会員。12年ほど町の図書館員をしていました。子ども向けのお話と好き勝手な詩(https://ameblo.jp/savetheearthgardian/entry-12601778794.html)を書いています。自然・ドライブ・博物館・棟方志功氏の作品・源氏物語・本(本なら問題集でも!)が好き。