がめ島うらしま館(11/14)

文・伊藤由美   絵・伊藤耀

11 秋と冬の部屋で

何かにせなかを強くおされて、美里と大介は、ほぼ同時に、春、夏の部屋からホールの床に転げ出ました。
「やったよ、みーちゃん!」
「うん、あたしも!」
ふたりは立ち上がって、タブレットを見せ合いました。
4番と5番のパネルが消え、ふたりの人物の顔の上部分が現れていました。

「男と女だな」
「きっと、浦島太郎とおとひめね」
「残り、13分や! 急がなくちゃ」
「あのね、大ちゃん」
美里がためらいがちに言いました。

「残りの時間であと3問はとても無理だと思うの。このままだと、3人とも、うらしま館で何千年も暮らすことになる。だからね、大ちゃんは、今すぐ、ここを出た方がいいと思う」
「え、みーちゃんはどうするの?」

「あたしは新一を置いて行けないから、ここに残って、最後までがんばってみる。大ちゃんはおよげるんだから、島から出て、ここであったことをみんなに伝えて。あたしたちがどうなったかってことを、うちのお父さんやお母さんに。大ちゃんまでここに残ったら、本当のことを伝える人がだれもいなくなっちゃう。だから・・・」
「いやや、そんなこと」
大介は、きっぱり、首をふりました。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

伊藤 耀 について

(いとう ひかる)福井県福井市生まれ。福井市在住。10代からうさぎのうさとその仲間たちを中心に絵画・イラストを描き始める。2019年からアールブリュット展福井に複数回入賞。2023年には福井県医療生協組合員ルームだんだん、アオッサ展望ホールその他で個展開催するほか、県内アールブリュット作家展に出品するなど、活動の幅を広げている。現代作家岩本宇司・朋子両氏(創作工房伽藍)に師事。HP:絵とおはなしのくに