それから、通る人はみんな、ぼくを見るとしんぱいそうな顔になってきた。
ほんとうは、ぼくもしんぱいなんだ。
〈あきらさん、早くかえってこないかな〉
とうとう、うでがだらんとさがって、かさがじめんにおちてしまった。
〈たいへんだ! かさはちゃんとあきらさんにわたさなきゃ。ぼくは、るすばんの ゆきだるまなんだから〉
そのとき、学校がえりの小学生が通りかかった。
朝、ぼくのほっぺをさわったあの男の子だ。
「このあたりで、まだとけてないゆきだるまはきみだけだよ。すこいなあ」
そういって、かさをおなかのよこにたてかけてくれた。
〈よかった! 〉
けれど、ぼくもだんだんとけて、せがひくくなってきた。
体も顔もかたむいて空しか見えなくなった。
「ああ。あきらさん、早くかえってきて! 」
お日さまは、西の空にしずみかけて、通る人はみんないそぎ足でかえっていく。
もう、だれもぼくを見なくなった。
とうとう、ぼくはかさとおなじ高さの、ただのゆきのかたまりになった。