後ろから、同期の万実がコピー機をのぞいて、
「わぁ、いいな。川越に行くの?」
と、はしゃいだ声をあげた。
「観光じゃないわよ」
「でも、時間あるなら『時の鐘』くらいは見て来たら? あそこには、ちょっとした都市伝説があってーーー」
普段から、スピリチュアルな発言の多い万実だが、今日の情報は菜津の心に響いた。
四百年近く町を見守ってきた『時の鐘』には、不思議な力が宿っているらしい。
朝一番の鐘が鳴る前に、その鐘の真下に立って、両手を胸に当て、「何年何月何日」と十回唱えれば、その「何年何月何日」にタイムスリップ出来るというのだ。
即、実行せねば!
菜津は、夢が見たかった。
ネットで『時の鐘』が朝六時になるのを調べ、超早起きして車で川越へ。蔵づくりの静かな町は、まだ通る人もまばらで、観光名所の『時の鐘』でさえ、人の姿が無かった。