それから、ひと月も経たないうちに、菜津は、日々の志門の態度にイラついて、ケンカをふっかけ、志門が怒って出て行く事態が、何度も繰り返された。
「でも、大丈夫」
そのたびに『時の鐘』にすがりついて、助けられた。
おかげで川越が、菜津の第二の故郷みたいになっていた。
志門と出会って三年目。
ようやく、二人の間に「結婚」が意識され、新生活のあれこれを相談しているうち、何を聞いても生返事の志門に、またまた菜津が大爆発。
「もーやめ! あんたって、ホント、やな男! やめ、やめ、ぜーんぶ、やめ!」
言い終わった時、菜津の頭の中で「カーン」と鐘が鳴った。
この音、聞き慣れた川越のーーー。
何度タイムスリップし、軌道修正したって、別なタイミングで、やっぱりケンカしてしまうデコボコな二人。懲りない自分が可笑しくて、菜津は思わず、クスッとひとり笑い。その顔を見た志門も、なぜかニッコリ。空気が一瞬で、和んでいた。
「あらら、ケンカしていたはずなのに」
二人のケンカには、『時の鐘伝説』なんて、最初から要らなかったんだ。
笑顔こそ、最高の魔法だったんだ、と菜津は悟って、とびきりの笑顔になった。