ピイの飛んだ空(6/8)

文・七ツ樹七香   絵・久遠あかり

お母さんはそれきり何も言わなかった。カッとほほが熱くなった。はずかしさと受け止められなかったあまえとわがままが、いら立ちになってふき出した。
「なんでだよ! そのくらいやってくれたっていいじゃん。お母さん、何もしないんだから!」
「秋斗が世話をするんでしょう。お母さんは手伝わないっていったよね」

その声は、おこってなんかいなかった。けれど秋斗はお母さんのおだやかな声で、ぴしゃりとほほをはたかれたような気がした。
「ひとりでできるよ! お母さんのバカ!」
できないことなんてない。できる。こわくない。
呪文(じゅもん)のようにとなえ顔を真っ赤にして、秋斗はバッタをにぎったままピイの待つげんかんに向かった。

ピイ、ピイ、ピイ――。

秋斗の気配を感じると、ピイは声高にさえずる。古い小鳥の保育ケージのふちに走りよって、大きくクチバシを開きエサをねだって鳴く。
顔を覚えてくれているのだろう。
おなかをすかせたピイの真っ黒な瞳は宝石(ほうせき)のようだ。

あたたかな小鳥にそっとふれて手に乗せて、なでてやれたらどんなにうれしい心地になるだろう。けれど、それは精一杯(せいいっぱい)のガマンでたえていた。約束だった。かわいがらない。
初めはなっ得いかなかったものの、今ではそれがピイのためだと秋斗にもなんとなくわかっていた。ピイが巣立った時に、もしだれか悪い人につかまってきずつけられたり、とじこめられたりすることなんて考えたくもなかった。

七ツ樹七香 について

(ななつきななか)熊本県在住 会社員勤務を経てフリーライター・(アマチュア)作家 新紀元社WEBサイト パンタポルタで記事・コラムを執筆するかたわら、WEBで小説を発表。公募活動にも力を入れる。『ピイのとんだ空』で日本動物児童文学賞 優秀賞。熊本県民文芸賞では小説部門を二年連続受賞。本賞で2019年に第1席を獲得した『ラスト・オテモヤン』は熊本日日新聞に全10回連載され好評を博す。本作は作品集収録とともに朗読CD化、熊本県内数カ所の図書館で視聴可能。 ほか、西の正倉院 みさと文学賞 佳作、集英社WEBマガジンコバルト がんばるorがんばらない女性小説賞 大賞など。 児童文学から一般文芸まではば広く手がけている。動物が大好き。犬と小鳥と暮らしている。著書を持つのが夢。

久遠あかり について

(くどうあかり) 漫画家。主に児童向け、動物のお話を執筆。ハリネズミや犬を飼い自然と動物好きに。現在は保護猫と暮らしている。また、別名義(光晴ねね)で少女漫画やロマンスジャンルなどで活動中。 pixiv fanbox 光晴ねね https://nene-mitsuharu.fanbox.cc/