がめ島うらしま館(3/14)

文・伊藤由美   絵・伊藤燿

「おい、大介。島には行くな」
後ろから浩一の声が追いかけてきます。
「うっせいな。分かってるって!」
大介は、ぶつぶつ、言いながら、砂遊びや日向ぼっこをしている人々の間を、のしのしと歩いて行きます。
美里と新一はその後を、ペタペタ、ついて行きました。

海水浴場の西側には大型タンカーも出入りする港があって、丸い、巨大な石油備蓄タンクが並んでいます。
その辺り、夕暮れには美しい夕日がしずみました。
一方、東側には、はるか白山連峰(れんぽう)から連なる山々がなだらかな岬(みさき)となって、日本海への長い旅を終えていました。

大介の向かったのは、その岬(みさき)から海へと張り出す突堤(とってい)でした。
何人ものつり人がさおをたれています。
「ねえ、カニ、どうやって取るの?」
大介の速足をけんめいに追いかけながら、新一は聞きました。

「すぐ、分かるって」
突堤(とってい)に着くと、3人におどろいて、イソガニたちが岩の間に、さわさわと、かくれていきました。
大介はしゃがんで、バケツの中からするめとタコ糸を取り出し、糸の先にするめの切れはしを、しっかり、結び付けました。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

伊藤 耀 について

(いとう ひかる)福井県福井市生まれ。福井市在住。10代からうさぎのうさとその仲間たちを中心に絵画・イラストを描き始める。2019年からアールブリュット展福井に複数回入賞。2023年には福井県医療生協組合員ルームだんだん、アオッサ展望ホールその他で個展開催するほか、県内アールブリュット作家展に出品するなど、活動の幅を広げている。現代作家岩本宇司・朋子両氏(創作工房伽藍)に師事。HP:絵とおはなしのくに