そのときです。タヌキさんがいいました。
「店長、さっきの、あの調子でいいんじゃないんですか」
「そうですよ、あの『おねえことば』もなかなか楽しかったですよ」
シカさんもいいました。
「ぼ、ぼくも、店長はやさしい話し方ができるようになると思います」
リスくんは、うつむきながらいいました。
「やさしい話し方とか『おねえことば』ってなんだよ」
イノシシ店長は、顔をあげました。
「えー? 店長、気がついてなかったんですか? いつもこわーい店長が、さっきからきゅうにやさしくなったりしたので、どうしたんだろうと思ってたんです」
シカさんはにっこりしました。
「こわい? おれって、いつも、こわいのか?」
「いつでも、こわいでーす!」
シカさん、タヌキさんが声をそろえました。
「オレのいいかたって、ちょっときつい?」
「ものすごーく、きついでーす」
お客さんの声がそろいました。
「みんなそう感じていたのに、オレは・・・」
店長は、力なくイスにすわりこみました。
「リスくん。すまなかった」
「いえ、そんな・・・」
リスくんは、はずかしそうにいいました。
「もう、これからはきついいい方しないから、リスくん! さぁ、本当においしいラーメンを食べてもらうために、しっかりお仕事しましょ、あれ、またおねえことばになってるぞ」
「アハ、ハ、ハ」
みんなの顔が明るくなりました。
「店長、チャーシューメン大盛りで」
「特製ラーメン、まだですか?」
「いまイノシシスピードでつくってまーす」
店長は汗をかきながら答えます。
「店長ったら、冗談いってないで、早く早く」
「よっしゃあ、ウルトラ・イノシシスピード!」
お客さんも、イノシシ店長も、リスくんもみんな明るい顔になっています。お店の中はおいしいにおいと笑い声であふれています。
ヤギさんはそのやりとりをみていて、満足そうな顔をして店をでました。
「あれ? ヤギさんがいない」
リスくんは、店の外へさがしに行きました。
町外れにたどりつくと、ヤギさんは、もうたるを片付けています。
「店長は気づいてくれたようじゃなあ」
「ヤギさんのおかげです。ほんとうにありがとう! あの、つけもの代はいくらですか?」
「お代はいらんよ」
ヤギさんは、たるをふろしきでつつみました。
「え、どうして?」
「ことばをつけるとなあ、ぬかの味がよくなるんじゃ。おかげでつけものは、どんどんおいしくなって、よく売れる。だからお代はいらんよ」
ヤギさんは、歩きだしました。
「ありがとう、ヤギさん。お願いがあるんだけど。あの袋とぬかを少し分けてほしいんだ」
「どうするんじゃ?」
ヤギさんはふりかえりました。
「またイノシシ店長がきついいい方にもどったとき、あのつけものをつけようと思って」
「そりゃ、もう必要ないわい。店長もことばの大切さをよくわかってくれたからの」
「でも」
リスくんは、うつむいてしまいました。
「リスくんの心の中に、あの袋とぬかがあるんじゃ。こまったときは、心の中でつけものをつけてごらん。必ず解決するから」
「うん、わかった。ぼく、がんばってみるよ」
リスくんは、ヤギさんの目をしっかりとみつめました。
「ありがとう、ヤギさん」
リスくんは、手をふりました。
「いらんかねえ、つけものはいらんかねえ」
ヤギさんの声が少しずつ遠くなっていきました。