ことばのつけものやさん 5/5

文・中村文人   絵・堀江篤史

そのときです。タヌキさんがいいました。

「店長、さっきの、あの調子でいいんじゃないんですか」

「そうですよ、あの『おねえことば』もなかなか楽しかったですよ」

シカさんもいいました。

「ぼ、ぼくも、店長はやさしい話し方ができるようになると思います」

リスくんは、うつむきながらいいました。

「やさしい話し方とか『おねえことば』ってなんだよ」

イノシシ店長は、顔をあげました。

「えー? 店長、気がついてなかったんですか? いつもこわーい店長が、さっきからきゅうにやさしくなったりしたので、どうしたんだろうと思ってたんです」

シカさんはにっこりしました。

「こわい? おれって、いつも、こわいのか?」

「いつでも、こわいでーす!」

シカさん、タヌキさんが声をそろえました。

「オレのいいかたって、ちょっときつい?」

「ものすごーく、きついでーす」

お客さんの声がそろいました。

「みんなそう感じていたのに、オレは・・・」

店長は、力なくイスにすわりこみました。

「リスくん。すまなかった」

「いえ、そんな・・・」

リスくんは、はずかしそうにいいました。

「もう、これからはきついいい方しないから、リスくん! さぁ、本当においしいラーメンを食べてもらうために、しっかりお仕事しましょ、あれ、またおねえことばになってるぞ」

「アハ、ハ、ハ」

みんなの顔が明るくなりました。

 

「店長、チャーシューメン大盛りで」

「特製ラーメン、まだですか?」

「いまイノシシスピードでつくってまーす」

店長は汗をかきながら答えます。

「店長ったら、冗談いってないで、早く早く」

「よっしゃあ、ウルトラ・イノシシスピード!」

お客さんも、イノシシ店長も、リスくんもみんな明るい顔になっています。お店の中はおいしいにおいと笑い声であふれています。

ヤギさんはそのやりとりをみていて、満足そうな顔をして店をでました。

 

「あれ? ヤギさんがいない」

リスくんは、店の外へさがしに行きました。

町外れにたどりつくと、ヤギさんは、もうたるを片付けています。

「店長は気づいてくれたようじゃなあ」

「ヤギさんのおかげです。ほんとうにありがとう! あの、つけもの代はいくらですか?」

「お代はいらんよ」

ヤギさんは、たるをふろしきでつつみました。

「え、どうして?」

「ことばをつけるとなあ、ぬかの味がよくなるんじゃ。おかげでつけものは、どんどんおいしくなって、よく売れる。だからお代はいらんよ」

ヤギさんは、歩きだしました。

「ありがとう、ヤギさん。お願いがあるんだけど。あの袋とぬかを少し分けてほしいんだ」

「どうするんじゃ?」

ヤギさんはふりかえりました。

「またイノシシ店長がきついいい方にもどったとき、あのつけものをつけようと思って」

「そりゃ、もう必要ないわい。店長もことばの大切さをよくわかってくれたからの」

「でも」

リスくんは、うつむいてしまいました。

「リスくんの心の中に、あの袋とぬかがあるんじゃ。こまったときは、心の中でつけものをつけてごらん。必ず解決するから」

「うん、わかった。ぼく、がんばってみるよ」

リスくんは、ヤギさんの目をしっかりとみつめました。

「ありがとう、ヤギさん」

リスくんは、手をふりました。

「いらんかねえ、つけものはいらんかねえ」

ヤギさんの声が少しずつ遠くなっていきました。

「いらんかねえ、つけものはいらんかねえ」