ぜんぜん不思議じゃなかった3日間(6/15)

文・朝日千稀   絵・木ナコネコ

「い、生き返ったんですか? か、帰って来た、ではなくて?」
「帰って来た、って、わい、どこにも行ってない」
「・・・あ、あ、そうですよね。はい、すみません。生き返えられてよかったです!」
「熱中症になりかけたんかな。しんどうなって、くらっときて、わい、死ぬかと思った」
って、いやいやいやいや。
「もう、すでに・・・」
言いかけ、あわてて口を押える。

そうでもしないと、言っちゃいそうだ。
もう、すでに、死んでますから! って禁句。
「わい、ねえちゃんに会わんかったら、死んでたかもしらんな。ほんとに、ありがとな」
でーすーかーらー、「もう、すでに・・・」とは言えない相手はユーレイだけれど、感謝されると、気分がいい。
じいさんも、気分がよさそうで、朝、出会った時のように、無視されないってことは、垣根はとっぱらわれたってことか。

ヒスイ探しをしている途中、ああなって、こうなってと、よくしゃべる。
「なあ、ねえちゃんも、ヒスイハンターか?」
「いえいえ、ハンターなんて、とんでもないです。ヒスイと他の石の区別すらつかないんですから」
親しみやすいせいだろうか、いつの間にか鳥肌は消え、気がつくとあたしも普通に話してた。

「区別、つかんのか。それは難儀やな」
「はい。じつは、本物のヒスイ、見たこともないんです」
「ほうか。ほんなら、手ぇ出し」
「はい」
「百聞は一見に如かずや」
ほい、っと手のひらに乗せられた石に、
「きれい!」思わず、見入った。
「ヒスイや」自慢気な声が言う。
これが、ヒスイというものか。
白地にところどころ翠が入っているその石は、あたしが闇雲に拾いまくった石たちとは、色彩も、質感も明らかにちがう。
石英の白すぎる白さとは異なる美しい乳白色の中、浮かび上がる翠は、きつね石の派手な緑と異なり、気品がある。

「ありがとうございました。参考にします」
礼を言い、手のひらを差し出すと、じいさんが、首をふる。
「ええから、とっとき。礼や」
「えっ! これ、いただいても、」
「ええ、ええ、わいは、もういらん」
「もう、いらんって?」
「持ってても、しゃないしな」
と言うじいさんの顔が、一瞬くもったように見えた。

朝日千稀 について

(あさひ かづき)福井県福井市在住。3猫(にゃん)と一緒なら、いつまでもグータラしていられる

木ナコネコ について

(きなこねこ)福井生まれ、大阪住まい。福井訛りの謎の関西弁が特徴。猫と珈琲と旅が好き。