つなぐ(5/10)

文・藤 紫子  

ようやく電車がやってきました。待ちに待った電車です。
とびらが開いたとたん、勢いあまって転びそうになりながら、乗りこみました。
いてもたってもいられず、おじいさんはとびらの前に立ったままです。
電車が時音駅にとうちゃくするのを、今か今かと待っています。

着くやいなや、上がらない足を必死に動かして、改札口のそばにある窓口に急ぎました。
さいわい、ほかにお客さんはいません。

「す、すまんが、少々おたずねしたい! このくらいの大きさの、白っぽい手ぬいのお守りは届いておらんかね。神社のではないやつだ。1時間くらいまえ、ここらで落としたようなのだが」
駅員さんは顔色も変えず、慣れたふうにこう言いました。
「手ぬいのお守りですか。本日ですね。たしかめてまいりますので、少々お待ちください」

奥へ引っこみ、帳簿をめくりながら他の駅員さんにたずねる様子を、おじいさんははらはらしながら見守りました。
「お客様。お待たせいたしました。すみません。こちらには届いておりませんでした。届きましたら、ごれんらくいたしましょうか」
おじいさんの肩ががっくりと落ちてしまいました。

でも、おじいさんはあきらめませんでした。
(駅のなかを探してみよう。風でどこかに飛ばされたかもしれないし、けられて思わぬところにあるかもしれない)
いちおう、名前とれんらく先を用紙に書きました。
それから、花束を預かってもらい、快速電車を降りてから花屋さんに向かうあたりを、目を皿にして探し回りました。

藤 紫子 について

(ふじのゆかりこ) 札幌市生まれ。札幌市在住。季節風会員。小樽絵本・児童文学研究センター正会員。12年ほど町の図書館員をしていました。子ども向けのお話と好き勝手な詩(https://ameblo.jp/savetheearthgardian/entry-12601778794.html)を書いています。自然・ドライブ・博物館・棟方志功氏の作品・源氏物語・本(本なら問題集でも!)が好き。