お昼の時報が鳴りました。
「もう、こんな時間か・・・」
見つからないまま時間だけがすぎ、気持ちがすっかり落ちこんでしまいました。
ひざもしくしくと痛みます。
絶対にあきらめたくない気持ちがくすぶる一方で、もうだめだ、見つからないという思いの方が勝っていました。
「清枝さんが待っておる。もう、行こう――」
おじいさんは、肩から大きく息をはきました。
ホームに入っていた郊外行きの電車に座り、おじいさんは出発を待っていました。
ふたたびかかえた花束から、ほわっとかすかに甘い香が立ち上がりました。
(清枝さん、あなたからもらった大切な、ずっと大事にしてきたお守りを、すまん、失くしてしまったよ・・・)
結婚して半年もたたないうちに、戦地へおもむくことになったおじいさんに、奥さんだった清枝さんが、いろいろな想いをこめて作ってくれたお守りでした。