「みーちゃんはもちろん生きている。それより幸太くん、『この山野辺さん』とはどういう意味だ? さっきあっちに置いた件と関わりがあるのか?」
黒岩さんは、腰を落とし、ぼくの目をじっと見つめる。そして、促すようにゆっくりとまばたきをした。
「はい、じつは、」
言いかけて、
「話しても、いいですか?」
了解をとろうと見ると、山野辺さんは、うなづいた。
ぼくは、昨夜、山野辺さんの姿を見かけた時から、いまに至るまでの経緯を話した。
高校生のふたりが、展望台でお互いを待ちながらもすれ違った件以外、すべて。
黒岩さんは、じっと耳を傾けている。
一言も口をはさまず、姿勢も変えず、穏やかで、冷静な表情、事実を見きわめるような焦点の定まったまなざしで。
「さすがです。黒岩さん。なにを聞いても動じないなんて! さすが、新聞記者さんです!」
ほんとうに、感心してしまう。
ぼくの心は、ぶっ飛んだり、こけたり、している。驚いている。
黒岩さんには、かなわない・・・。
「あっ、いや、固まっていた・・・」と聞いて、ちょっと、ホッ。
「事実は小説よりも奇なり、ってほんとうなんだな」
「ですね。その諺、ぼくの母もよく言います。・・・でも、信じてもらえて、よかったです」
「幸太くんの話にちりばめられていたからな、みーちゃんの口癖が。驚き桃の木さんしょの木とか、とりあえずとか聞かされたら、信じるほかないじゃないか」
そう言って、黒岩さんは、表情をゆるめた。
「それに、そのパピの様子。みーちゃんのユーレイ、いや、魂は、そこに?」
山野辺さんの腕の中はあきらめて、足元にすりすりしてはすり抜けているパピの方をじっと見つめた。
「・・・みーちゃん、お久しぶりです」
しばらく。
ぼくは、ふたりの会話を、つないだ。