「山野辺さん、この人に相談してみてもいいでしょうか?」
「とりあえず・・・、いいよ。いろいろ問題はありそうな人物だけど、一応は名探偵なんだろ?」
「はい。あっ、ぼく、またクセを出しちゃったんですね」
「幸太、おまえ、だれに向かって話しているんだ? ワシは危険でもバカでもないし、デリカシーもたっぷり持ち合わせておるわ!」
ぶちぶち言っている猿神さんに謝ってから、ざくっと事情を説明してみる。
すると、答えはあっさり返された。
「起きるまで、ほっておけばいいじゃないか」
そう言ってニヤリと笑い、つけ足した。
「それか、ないしは・・・」
「先輩、もったいぶらずに、教えてください」
「では、教えてやろう。黒岩、眠って起きないお姫さまの話は知っているか?」
「はい。『白雪姫』とか『眠れる森の美女』、くらいなら」
「その姫を起こしたのは?」
「原作をあっちに置けば、一応、王子です」
「して、その手段はいかに?」
もじもじしはじめた黒岩さんに、
「ほれほれほれ、恥ずかしがってる場合じゃないだろ」
さっさと答えろと詰め寄る猿神さんは、やけに楽しそうだ。
「確か、く、くちづけ、だったと・・・」
「だろ? だったら、やってみろ。行け! 黒岩、ゴー!!」
「せ、先輩、そんなこと突然言われても・・・」
うつろな目をしてうろたえていた黒岩さんだが、
「そうか。おまえがいやならワシが行く!! 黒岩、おまえのみーちゃんはどこだ?」
あたりを見回し、ふいっふいっふいっとほくそ笑む猿神さんの前に、両手を広げ、立ちはだかった。
「せ、先輩、やはり、ぼくが行きます!!!」
決意表明した黒岩さんを、
「いやいや、ワシが!」
唇を突き出した猿神さんが押しのけるのと、
「それは勘弁してくれ!」
と叫んだ山野辺さんの姿が消えたのは、同時だった。
ぼくが、高校生の山野辺さんを見たのは、それが最後になった。