ぼくたちは夏の道で(11/12)

文・朝日千稀   絵・木ナコネコ

「山野辺さん、この人に相談してみてもいいでしょうか?」
「とりあえず・・・、いいよ。いろいろ問題はありそうな人物だけど、一応は名探偵なんだろ?」
「はい。あっ、ぼく、またクセを出しちゃったんですね」
「幸太、おまえ、だれに向かって話しているんだ? ワシは危険でもバカでもないし、デリカシーもたっぷり持ち合わせておるわ!」
ぶちぶち言っている猿神さんに謝ってから、ざくっと事情を説明してみる。

すると、答えはあっさり返された。
「起きるまで、ほっておけばいいじゃないか」
そう言ってニヤリと笑い、つけ足した。
「それか、ないしは・・・」
「先輩、もったいぶらずに、教えてください」

「では、教えてやろう。黒岩、眠って起きないお姫さまの話は知っているか?」
「はい。『白雪姫』とか『眠れる森の美女』、くらいなら」
「その姫を起こしたのは?」
「原作をあっちに置けば、一応、王子です」
「して、その手段はいかに?」
もじもじしはじめた黒岩さんに、
「ほれほれほれ、恥ずかしがってる場合じゃないだろ」
さっさと答えろと詰め寄る猿神さんは、やけに楽しそうだ。

「確か、く、くちづけ、だったと・・・」
「だろ? だったら、やってみろ。行け! 黒岩、ゴー!!」
「せ、先輩、そんなこと突然言われても・・・」
うつろな目をしてうろたえていた黒岩さんだが、
「そうか。おまえがいやならワシが行く!! 黒岩、おまえのみーちゃんはどこだ?」
あたりを見回し、ふいっふいっふいっとほくそ笑む猿神さんの前に、両手を広げ、立ちはだかった。

「せ、先輩、やはり、ぼくが行きます!!!」
決意表明した黒岩さんを、
「いやいや、ワシが!」
唇を突き出した猿神さんが押しのけるのと、
「それは勘弁してくれ!」
と叫んだ山野辺さんの姿が消えたのは、同時だった。
ぼくが、高校生の山野辺さんを見たのは、それが最後になった。

朝日千稀 について

(あさひ かづき)福井県福井市在住。3猫(にゃん)と一緒なら、いつまでもグータラしていられる

木ナコネコ について

(きなこねこ)福井生まれ、大阪住まい。福井訛りの謎の関西弁が特徴。猫と珈琲と旅が好き。