「そんなことより、ワシは仕事に行ってくる」
「調査とか、尾行とかですか?」
「いや、電球の取り換えだ」
猿神さんは、ガレージのシャッターを開ける。
中には、まるっこい型の白い軽自動車。
「この車で行くんですか?」
「いや、エンジンをかけに来ただけだ」
「かけに、来ただけ、ですか?」
「そうだ。バッテリーがあがらんようにな。だいたい、おまえは、ワシのキャロちゃんが、」
「キャロちゃん? あっ、話の腰を折って、すみません」
「ワシの車だ。年代物のワシのキャロちゃんのエンジンが、ゆるい坂でも、バウンバウンと泣き声をあげ、止りかかるワシのキャロちゃんのエンジンが、猛暑に耐えられると思うのか? 苦難の冬を乗り切って、春に一息ついたと思えばこの猛暑だ!」
「わかりました!」
とても古いこの車は、気温が安定した季節しか運転できない、のだろう、たぶん。