「あ、あの、猿神さん。それは、歩いて行くと解釈すれば・・・」
「あたりまえだ。歩いて行くに決まっている。すぐ裏のばあさんの家だし」
「では、ぼくも、ご一緒します」
おばあさんの家までの道すがら、出会った人たちに、こんな猫を見かけませんでしたかと、聞いてみよう。
おばあさんにも、聞けばいい。
パピ捜しの、小さな一歩、聞きこみだ。
と思った矢先、「いや」、猿神さんが頭をふった。
「おまえは、いい。あのばあさんは人見知りが激しくてな。輝にもなつかなかった」
「それならぼくは、ポスターの猫、捜してきてもいいですか?」
「依頼じゃないなら、ほおっておけ」にべもない猿神さんに、
「依頼が来た時の、練習ってことで」ぼくは、両手を合わす。
「名探偵の助手自主訓練ってことで」と、ぼくは頭を下げる。
「名探偵の助手自主訓練とな?」
「はい!」
「まあ、そういうことなら。だがな、他の仕事が入るかもしれん。ちゃっと行って、さっと帰ってくるんだぞ」
と睨まれても、猫捜しは時間がかかる。
人の通らない所や、止まっている車の下を捜しながら聞きこみをする事も計算に入れると、ちゃっとさっとは無理かもしれない。が、すぐに発見! という、激しい幸運に見舞われる可能性だってあるはずだ。
「はい!」運がよければ・・・。
「ワシより早く戻った時は、ここに玄関の合い鍵がある。チャッピー用の出入り口はあるが、おまえには必要だろう」
猿神さんは、車のサンバイザーに手を入れて取り出したキーホルダーをかかげ、
「こっちがキャロちゃん、こっちが玄関」
指し示して教えてくれると、キャロちゃんのエンジンを少し動かし、キーホルダーをサンバイザーのかげに戻す。
「ほんとうは一緒に行きたいが・・・。あのばあさんはワシに輪をかけた猫嫌いだ。なにかされたら大変だから、ちゃんとお留守番してるんだぞ。あまり遠くに行くんじゃないぞ」
チャッピーに甘い声でそう言うと、大またで行ってしまった。