日曜日の朝早くから出かけたお父さんは、それからすぐにソラを連れて帰ってきた。
げんかん先で、お父さんは目を赤くしていた。くるみの両親はふたりとも犬が好きだから、愛犬を手放す浅田さんを、とても気のどくに思っているらしかった。
「『ソラをお願いします』って、泣いておられたよ、浅田さん」
「そっか、ソラもさみしいだろうね。でも、ソラ! うちで楽しくすごそうね!」
お母さんがしゃがみこんで、心細そうな顔の大きな犬のノドをそっとなでると、ソラはおずおずとしっぽをふった。しっぽの金色のかざり毛がゆらゆらする。
それをろうかからそっとのぞいていたくるみは、ふいにソラと目が合ってビクッとした。お父さんもくるみに気づいて声をかける。
「くるみ。ほら、ソラが来たよ」
「ふうん、わかった。わたし、いまから外にスケッチに行くから」
くるみは、スケッチブックとえんぴつを入れた外出用のバッグをかたにかけた。
「ソラといっしょに、散歩に行かないか?」
「行かないよ。いってきます」
お父さんにそっけない返事をして、くるみはソラの横を通ってげんかんをサッと出ていく。ソラがくるみのにおいをかぎたそうにしていたが知らないふりをした。
くるみは自転車のカゴに絵の道具を入れてペダルをこぎだした。
「エルとはぜんぜんちがうし、やっぱり犬はぜんぜん好きじゃない」
言い聞かせるようにつぶやきながら、いつもより遠くまでくるみは自転車をこいでいった。ちょっとうれしそうにしっぽをふった、ソラのことを思いうかべながら。