エルとくるみとソラ(2/7)

文・七ツ樹七香  

くるみとエルは、ずっといっしょに育ってきた。2年前のお別れのときまで。あのときエルはくるみより4つ年上の12才で、心ぞうの病気になって毎日ねむってばかりいた。そんなエルを家族みんなで心配した。

『くるみ、エルの具合が良くないみたいなんだ。ちょっと今日はおうちにいよう』
『でも、前からの約束なんだよ? 水族館行くって。アキちゃん、楽しみに・・・』
ある日曜日のこと。エルのことも心配だけれど、友だちとの約束をやぶるのも不安でくるみがいうと、お父さんはむずかしい顔をした。

『少しだけ行ってきたら? 気分てんかんになるかもしれないし。エルはわたしが見てるから』
お母さんのてい案に、くるみもうなずいた。エルを心配して、お父さんはエルのいるリビングで看病する日々が続いていたのだ。

『エル、大丈夫か?』
お父さんの問いかけに、エルはゆっくりとしっぽをふる。
『エル、すぐ帰ってくるからね』
くるみが顔を近づけると、エルは起き上がってくるみの鼻先に黒いかわいた鼻をよせた。エルとくるみの、いつもの「いってらっしゃい」の合図だ。だから、くるみは出かけた。

七ツ樹七香 について

(ななつきななか)熊本県出身。「ピイのとんだ空」で第30回日本動物児童文学賞優秀賞。 「ラスト・オテモヤン」で第41回熊本県民文芸賞小説部門一席を受賞。熊本日日新聞に全10回連載され好評を博す。本作は朗読CD化、熊本県内数カ所の図書館で視聴可能。 ほか、第1回西の正倉院みさと文学賞 佳作、集英社WEBマガジンコバルト がんばるorがんばらない女性小説賞大賞、第16回深大寺恋物語 調布市長賞など。 共著に『謎解きホームルーム2』『恐怖文庫』『感動文庫』(いずれも新星出版社)動物が好き。犬と小鳥と暮らしている。