エルとくるみとソラ(2/7)

文・七ツ樹七香  

日曜日の朝早くから出かけたお父さんは、それからすぐにソラを連れて帰ってきた。
げんかん先で、お父さんは目を赤くしていた。くるみの両親はふたりとも犬が好きだから、愛犬を手放す浅田さんを、とても気のどくに思っているらしかった。

「『ソラをお願いします』って、泣いておられたよ、浅田さん」
「そっか、ソラもさみしいだろうね。でも、ソラ! うちで楽しくすごそうね!」
お母さんがしゃがみこんで、心細そうな顔の大きな犬のノドをそっとなでると、ソラはおずおずとしっぽをふった。しっぽの金色のかざり毛がゆらゆらする。

それをろうかからそっとのぞいていたくるみは、ふいにソラと目が合ってビクッとした。お父さんもくるみに気づいて声をかける。
「くるみ。ほら、ソラが来たよ」
「ふうん、わかった。わたし、いまから外にスケッチに行くから」
くるみは、スケッチブックとえんぴつを入れた外出用のバッグをかたにかけた。

「ソラといっしょに、散歩に行かないか?」
「行かないよ。いってきます」
お父さんにそっけない返事をして、くるみはソラの横を通ってげんかんをサッと出ていく。ソラがくるみのにおいをかぎたそうにしていたが知らないふりをした。
くるみは自転車のカゴに絵の道具を入れてペダルをこぎだした。

「エルとはぜんぜんちがうし、やっぱり犬はぜんぜん好きじゃない」
言い聞かせるようにつぶやきながら、いつもより遠くまでくるみは自転車をこいでいった。ちょっとうれしそうにしっぽをふった、ソラのことを思いうかべながら。

七ツ樹七香 について

(ななつきななか)熊本県出身。「ピイのとんだ空」で第30回日本動物児童文学賞優秀賞。 「ラスト・オテモヤン」で第41回熊本県民文芸賞小説部門一席を受賞。熊本日日新聞に全10回連載され好評を博す。本作は朗読CD化、熊本県内数カ所の図書館で視聴可能。 ほか、第1回西の正倉院みさと文学賞 佳作、集英社WEBマガジンコバルト がんばるorがんばらない女性小説賞大賞、第16回深大寺恋物語 調布市長賞など。 共著に『謎解きホームルーム2』『恐怖文庫』『感動文庫』(いずれも新星出版社)動物が好き。犬と小鳥と暮らしている。