くるみとエルは、ずっといっしょに育ってきた。2年前のお別れのときまで。あのときエルはくるみより4つ年上の12才で、心ぞうの病気になって毎日ねむってばかりいた。そんなエルを家族みんなで心配した。
『くるみ、エルの具合が良くないみたいなんだ。ちょっと今日はおうちにいよう』
『でも、前からの約束なんだよ? 水族館行くって。アキちゃん、楽しみに・・・』
ある日曜日のこと。エルのことも心配だけれど、友だちとの約束をやぶるのも不安でくるみがいうと、お父さんはむずかしい顔をした。
『少しだけ行ってきたら? 気分てんかんになるかもしれないし。エルはわたしが見てるから』
お母さんのてい案に、くるみもうなずいた。エルを心配して、お父さんはエルのいるリビングで看病する日々が続いていたのだ。
『エル、大丈夫か?』
お父さんの問いかけに、エルはゆっくりとしっぽをふる。
『エル、すぐ帰ってくるからね』
くるみが顔を近づけると、エルは起き上がってくるみの鼻先に黒いかわいた鼻をよせた。エルとくるみの、いつもの「いってらっしゃい」の合図だ。だから、くるみは出かけた。