くるみの手元でていねいにえがかれた犬は、ソラをとてもよく観察したスケッチだった。あいきょうのある顔つきでふさふさの毛、そしてピンと立った耳がチャームポイントだ。
「そう・・・。でも、好きになれないなら、やっぱりむずかしいかな」
ぽつりとつぶやきが聞こえた。
「どういうこと?」
くるみがたずね返すのをお母さんは待たずに、夕飯のじゅんびをしにキッチンにもどっていった。
ソラは人の動く気配を感じると、頭をむくりと起こしてお母さんを見送り、そしてちらりとくるみを見た。目が合うと、少しうれしそうに、アーモンドみたいな形の黒いひとみがキラッとする。
ソラは、エルみたいなきらきらした目で、エルみたいなやさしい顔で、くるみと遊びたがる。
まっすぐな好意はくすぐったくて、うれしくなる気持ちもある。エルが好きだったようにボールを投げてあげたら、たぶんしっぽをブンブンふってソラもよろこぶだろう。
でも、まだくるみの胸は重たくて、やさしい気持ちが外に出てくるのがむずかしかった。