ゴホンゾンサマ(2/3)

文と絵・中西恵子

ところが、そのこわい人はおおきな目をギロリとうごかしただけです。
その人がみていたのは、トムでした。
トムがその人にちかよりました。

すると、ふしぎなことに、トムのせなかにむすびつけてある小さなリュックサックがひとりでにひらいて、なかみがシュルシュルシュルッと、とびだしたのです。
それはてがみとお金のようでした。

その人が、フムフムとてがみをよみはじめると、つるぎがふでに、まるい玉がしかくい紙にかわりました。
じろうが、目をまんまるくしてみていると、サラサラとなにかをかいて、トムにむかっていいました。
「りょうかいした」

紙は、ちゅうをクルクルまって、ひとりでにリュックの中にはいりました。
リュックのふたがパタンとしまると、トムがしっぽをたてて、ほえました。
「わん」
そして、もうスピードで、はしっていってしまったのです。
「トム! ああ、いっちゃった」

中西恵子 について

愛知県新城市生まれ。 武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。 第6回小学館童画新人大賞入賞。 絵本に『かえる』『ヘキサ、もりへいく』『トチノキのひっこし』『じろう、ひとりででんしゃにのる』など(以上福音館書店月間絵本「こどものとも」シリーズ、現在品切れ)、 さし絵に『たからものくらべ』(杉山亮作、福音館書店)、『点字の世界へようこそ』(黒崎惠津子文、汐文社)がある。 「らしさ」を追いかけて、七転八倒中。