ステルスおばあちゃん(2/8)

文・伊藤由美   絵・伊藤耀

と、その時、
「あーれー! 助けてー!」
と、頭の上から、ハツさんの悲鳴がふってきました。
見ると、白いつばさが強風にあおられて、クルクルと、飛ばされて行きます。

「大変だ! 多田君、早く、車を!」
「はい、先生!」
車の運転ができないコスモ博士は、多田君の自家用車に飛び乗って、ハツさんを、町はずれまで追いかけて、回収したのでした。
スタングラには、オン、オフのめもりのほかに、空を飛ぶためのGボタンもつけ加えられていました。

でも、ハツさんがそれを使って、ちゃんと飛べるようになるには、少し、時間がかかりました。最初の日のように、風に飛ばされないためには、練習が必要だったのです。
「母さん、がんばって、羽ばたいてください! 風を読むんです! いや、そうじゃなくって!」
ハツさんが、糸の切れたたこのように吹き飛ばされるたび、コスモ博士と多田君は、多田君の車を飛ばして、追いかけました。
でも、もともと、水泳の得意だったハツさんは、間もなく、とても上手に飛べるようになりました。

「さすがは母さん! うまいもんだ!」
「でも、白鳥が空で平泳ぎをしているってのも、みょうなもんすね」
「ふうむ。今度はクロールを始めたぞ」
「自由自在っすねえ。次は背泳ぎかな?」
「母さんの一番得意なバタフライだ、あれは」

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

伊藤 耀 について

(いとう ひかる)福井県福井市生まれ。福井市在住。10代からうさぎのうさとその仲間たちを中心に絵画・イラストを描き始める。2019年からアールブリュット展福井に複数回入賞。2023年には福井県医療生協組合員ルームだんだん、アオッサ展望ホールその他で個展開催するほか、県内アールブリュット作家展に出品するなど、活動の幅を広げている。現代作家岩本宇司・朋子両氏(創作工房伽藍)に師事。HP:絵とおはなしのくに