ステルスおばあちゃん(2/8)

文・伊藤由美   絵・伊藤耀

ところが、何日もたたないうちに、朝ごはんの席で、ハツさんが、「もう、飛ばない」と言い始めました。

「つばさはクローゼットにしまいましたよ」
「え、どうしてですか? とても気に入っていたじゃないですか、空のお散歩を」
コスモ博士は、コーヒーを飲む手を止めて、ハツさんの顔をのぞきこみました。
ハツさんは、はあっと、肩を落としました。
「だって、町の人たちが、私を指さして、笑うんだもの」
そりゃそうですよね、頭の上を、平泳ぎや、バタフライで飛んでいる、変な鳥がいれば。

「そんなこと、気にしなくていいんですよ。飛ぶ時に、スタングラをオンにすればいいんですから」
「あ、そうだった! そうすれば、だれにも見えないんだったわ! じゃ、もうひとっ飛び、してきますよ!」
ハツさんの声ははずみます。
さっそく、クローゼットからつばさを取り出して背負い、スタングラのスイッチをオンにしました。
たちまち、ハツさんのすがたは消え、パサリっと、軽い羽音がして、あとは静かになりました。
コスモ博士は、ふふふっと、笑って、残りのコーヒーを飲み干しました。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

伊藤 耀 について

(いとう ひかる)福井県福井市生まれ。福井市在住。10代からうさぎのうさとその仲間たちを中心に絵画・イラストを描き始める。2019年からアールブリュット展福井に複数回入賞。2023年には福井県医療生協組合員ルームだんだん、アオッサ展望ホールその他で個展開催するほか、県内アールブリュット作家展に出品するなど、活動の幅を広げている。現代作家岩本宇司・朋子両氏(創作工房伽藍)に師事。HP:絵とおはなしのくに