「ミエンダーさん、私、こわい。これから、何が起こるの?」
「ええ。ちょっと、早送りして、お見せしますよ」
ミエンダー氏はデバイスに手をかけました。時間は、2倍速、3倍速と、進み、いん石の落ちた方向から、もくもくと、雲がわいてきました。
「あれは?」
「巨大いん石が巻き上げたほこりです。あのほこりは、この先、何十年も、地球をおおい、地球を長い冬に閉じこめるんですよ」
雲は見る間にやって来ました。暗い空には、ひっきりなしに、カミナリがひらめき、バラバラと、ヒョウやあられがふってきて、シダの林を枯らして行きました。
ハツさんは、いつの間にか、ミエンダー氏にすがって、ぶるぶる、ふるえていました。
「はやく、この冬を追いはらってくださいな!」
ミエンダー氏がデバイスに、もう一度、ふれると、時間はさらに進み、雲が切れ、日光がもれ出しました。
あたりが、ふたたび、明るくなった時、ハツさんは「ああ!」っと、両手で顔をおおいました。目の前には、恐竜たちの死がいが、ごろごろ、ころがっていたのです。
「かわいそうに! 寒さを知らなかったから、こうして、絶めつしていったのね」
「でも、見てください。生き残った者たちもいますよ」
なるほど、目をこらして、よく見ると、小さなネズミたちが、恐竜の死がいにむらがって、さかんに食べていました。
「大きな恐竜のお肉! ずいぶんと、たくさんの仲間を養ったことでしょうね! そうか、冬の寒さは冷蔵庫の代わりもしたんだわ!」
「あのチビさんたちこそ、次の時代の地球の王者、あなた方のご先祖ですよ」
ハツさんの目はかがやきました。
「大木がたおれて光が通るようになると、日かげで小さくなっていた苗木が伸びるわ。何かの死は、何かを養うものなのね」
おや、ハツさんは、ネズミにまじって、羽のあるものが、肉をあさっているのを見つけました。
「何かしら。鳥みたいに見えるけど・・・」
「その通り。ずっと前に恐竜から分かれた鳥のご先祖ですよ。体が小さいから、少しの食べ物ですんだし、暖かい羽毛も幸いしたのでしょうしね」
「ふうん。たくましいものねえ。羽も赤や青色がまじって、なかなか、きれいじゃない。あれは、しょうらい、どんな鳥になるのかしら?」
この時、ネズミに肉を横取りされたご先祖鳥が、カアーっと、鳴きました。
「はいはい。分かりましたよ。カラスさんね」
ハツさんは、カラリと、笑いました。