ドイツに見る名作の伝承

◆ドイツの古典作品の継承方法は
そんな舞台を見て、「なるほどなあ」と思ったのが物語の伝承と変遷というテーマです。映画やゲームなどの「エンタメ」がたくさんあるご時世ですが、ドイツは劇場文化がしぶとく生き残っていて年末になると夫婦でオペラを見に行く人もけっこういたりするんですね。
子どもがいる家族はというと、「ヘンゼルとグレーテル」などの「名作」を見せようと連れていくことがある。ところが、モダンな演出、再解釈されていることが多く、子どもに見せたい古典的な演出の作品がない。日本の能楽などは様式、演出など基本的に変わりませんが、それとは真逆なんですね。

再解釈された「古典」も面白いけど、能楽のように「変わらないもの」を続けるには、ドイツの劇場界ではつまらないのか、あるいは作り手の創造性が強すぎるか。しかし、これもドイツの古典作品の継承方法のひとつかもしれません。
大胆にいえば落語と比べてみるとよいかもしれない。落語は口伝で伝承されるので、同じ演目でも演者や時代によって変わります。そう考えると「モモ」のサーカス+演劇という手法も、日本の落語のような古典継承がおこっている現場なのだと思えてきました。15歳以下の子どもたちには「モモ」はどんなふうに 見えたのでしょうか。

高松平藏 について

(たかまつ へいぞう) ドイツ在住ジャーナリスト。取材分野は文化・芸術、経済、スポーツ、環境問題など多岐にわたるが、いずれも住まいしているエアランゲン市および周辺地域で取材。日独の生活習慣や社会システムの比較をベースに地域社会のビジョンをさぐるような視点で執筆している。一時帰国の際には大学、自治体などを対象に講演活動を行っている。 著書に『エコライフ ドイツと日本どう違う』(化学同人/妻・アンドレアとの共著 2003年)、『ドイツの地方都市はなぜ元気なのか』(学芸出版 2008年)のほかに、市内幼稚園のダンスプロジェクトを1年にわたり撮影した写真集「AUF-TAKT IM TAKT KON-TAKT」(2010年)がある。1969年、奈良県生まれ。 HP;インターローカルジャーナル