ハトのオイボレ、最後の冒険(7/8)

文・伊藤由美   絵・伊藤 耀

それは急にやってきました。
「あれ、おかしいな。胸が苦しいぞ」
それもそのはずです。
ハトは、めったに、そんなに高くは飛ばないのですから。高いところのうすい、冷たい空気には慣れていなかったのです。
しかも、前に傷めたつばさも、ずきずきし始めました。
トンビやカラスに追われていたときに、夢中で働かせ過ぎてしまったのです。

「イテテテ・・・」
ちょっと羽ばたいては、つばさを休ませます。
そんな時、トンビだったら、羽をハングライダーのようにふくらませて、その場に止まっていたり、先へすべって行ったりすることができました。
風をはらんで、もっと高く上がることすら、できたのです。
でも、短い、とがったつばさのハトは、羽ばたきを止めれば、だんだんと落ちて行くしかありません。
幸い、海の方角から山に向かって、いつも、上向きの風が吹いていました。
それで、羽ばたきを止めている間も、少しは、高度を保つことができました。

いつまで持つでしょう。
あんのじょう、さっきまで見えていた蔵王は目の前の山にかくれ、こんもりしていた森も、今では、こずえの一本一本が見分けられるまでになっていました。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

伊藤 耀 について

(いとう ひかる)福井県福井市生まれ。福井市在住。10代からうさぎのうさとその仲間たちを中心に絵画・イラストを描き始める。2019年からアールブリュット展福井に複数回入賞。2023年には福井県医療生協組合員ルームだんだん、アオッサ展望ホールその他で個展開催するほか、県内アールブリュット作家展に出品するなど、活動の幅を広げている。現代作家岩本宇司・朋子両氏(創作工房伽藍)に師事。HP:絵とおはなしのくに