ハトのオイボレ、最後の冒険(7/8)

文・伊藤由美   絵・伊藤 耀

「あらら、だんまりかね? 失礼な!」
だまっていたって、やはり、おこらせました。
「あたしたちは、遠い、寒い国から、はるばる、海をこえ、山をこえ、何日もかけて、ここまで旅して来たんだ。おまえのような、人間の食べ物をあさり、苦労もせずに、のうのうと暮らしている鳥とはちがうんだよ。ここまで来るのだって、とちゅう、どれだけの仲間を失ったことか!このあたりはハンターがいないから、油断して、低めに飛んだのが間ちがいだったよ。おまえのせいで、あやうく、もう一人、若い子を失うところさ!」
「私たちが、苦労もせずに、のうのうと暮らしているだって!」
マガモのひどい言葉に、オイボレはカッとなって、急に、力が出ました。

「そっちこそ失礼な! おまえたちはおまえたちで飛べばいいじゃないか! こっちのじゃまこそ、しないでほしいもんだ!」
オイボレは、マガモの群れからはなれようとしましたが、運の悪いことに、マガモの行き先は、オイボレの目指している方向と、ぴったり、重なっていました。

マママガモは、ちっぽけなハトが堂々と言い返したので、ちょっと、びっくりしたようでしたが、
「何も、おまえのじゃまをしようっていうんじゃないよ。ただ、一言、あやまってくれればいいんだ。そんなにいきり立つことはないじゃないか」
と、ちっとも、はなれて行こうとしません。

どうやら、オイボレがふつうのハトの飛ばないコースを飛んでいることに、とても、興味を持ったようすなのです。仕方なく、うるさいママを追いはらおうと、
「蔵王に・・・、太陽王に会いに行くところなんだ」
と、手短かに、事情を話しました。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

伊藤 耀 について

(いとう ひかる)福井県福井市生まれ。福井市在住。10代からうさぎのうさとその仲間たちを中心に絵画・イラストを描き始める。2019年からアールブリュット展福井に複数回入賞。2023年には福井県医療生協組合員ルームだんだん、アオッサ展望ホールその他で個展開催するほか、県内アールブリュット作家展に出品するなど、活動の幅を広げている。現代作家岩本宇司・朋子両氏(創作工房伽藍)に師事。HP:絵とおはなしのくに