ハトのオイボレ、最後の冒険(7/8)

文・伊藤由美   絵・伊藤 耀

「ビートって、何のことだろう?」
初めは何を言われたのか分からず、ただ、ジタバタ、飛んでいましたが、そのうち、オイボレは、自分に向かって、とてもいい風が吹いて来ることに気がつきました。
それに合わせて羽ばたくと、前より、ずっと、楽に飛べるのです。

「そうか! この風はあの子の羽ばたきが作っているんだ!」
見ると、マガモたちは、前を飛ぶ仲間と、上下や左右に、少しずつずれながら、Vの字の形を作って、飛んでいます。
前の仲間の作る風が、後ろの仲間の飛行を楽にしているのです。
そして、オイボレが群れの最後にくっついて飛べるよう、マガモたちは自分たちの飛び方やスピードをくふうしていたのでした。

「ありがたい。これだったら、ぜんぜん、力がいらないぞ」
少し羽ばたいては、ふわんふわんと、前から来る風に乗ればいいのです。
「シフト!フォーメーション・コード、シグマ・フォー・シックス! グェー!」
ときどき、たがいの場所を交かんしながら、群れは、ぐんぐん、山をこえて行きます。

「前方に雲! 水滴(すいてき)に注意! さけて、高く上がれ! グエー!」
「下方に湖! まだ、降りちゃだめ! グエー!」
常に連らくを取り合い、助け合いながらの旅です。

こうして、マガモたちのおかげで、オイボレは、また、うっすら、雪化しょうの蔵王を見ることができました。
近づくにつれて、オイボレは目を見張りました。
赤や黄色に紅葉した木々の葉が、山全体を、あでやかに、いろどっていました。
でも、頂上までくると、様子は、急に、あらあらしく変わりました。
白茶けた地面が、傷口のように、バックリ、むきだしになっていて、その真ん中に、青緑色の水をたたえた湖がありました。
その昔、蔵王がふん火した時にできた火山湖です。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

伊藤 耀 について

(いとう ひかる)福井県福井市生まれ。福井市在住。10代からうさぎのうさとその仲間たちを中心に絵画・イラストを描き始める。2019年からアールブリュット展福井に複数回入賞。2023年には福井県医療生協組合員ルームだんだん、アオッサ展望ホールその他で個展開催するほか、県内アールブリュット作家展に出品するなど、活動の幅を広げている。現代作家岩本宇司・朋子両氏(創作工房伽藍)に師事。HP:絵とおはなしのくに