「ビートって、何のことだろう?」
初めは何を言われたのか分からず、ただ、ジタバタ、飛んでいましたが、そのうち、オイボレは、自分に向かって、とてもいい風が吹いて来ることに気がつきました。
それに合わせて羽ばたくと、前より、ずっと、楽に飛べるのです。
「そうか! この風はあの子の羽ばたきが作っているんだ!」
見ると、マガモたちは、前を飛ぶ仲間と、上下や左右に、少しずつずれながら、Vの字の形を作って、飛んでいます。
前の仲間の作る風が、後ろの仲間の飛行を楽にしているのです。
そして、オイボレが群れの最後にくっついて飛べるよう、マガモたちは自分たちの飛び方やスピードをくふうしていたのでした。
「ありがたい。これだったら、ぜんぜん、力がいらないぞ」
少し羽ばたいては、ふわんふわんと、前から来る風に乗ればいいのです。
「シフト!フォーメーション・コード、シグマ・フォー・シックス! グェー!」
ときどき、たがいの場所を交かんしながら、群れは、ぐんぐん、山をこえて行きます。
「前方に雲! 水滴(すいてき)に注意! さけて、高く上がれ! グエー!」
「下方に湖! まだ、降りちゃだめ! グエー!」
常に連らくを取り合い、助け合いながらの旅です。
こうして、マガモたちのおかげで、オイボレは、また、うっすら、雪化しょうの蔵王を見ることができました。
近づくにつれて、オイボレは目を見張りました。
赤や黄色に紅葉した木々の葉が、山全体を、あでやかに、いろどっていました。
でも、頂上までくると、様子は、急に、あらあらしく変わりました。
白茶けた地面が、傷口のように、バックリ、むきだしになっていて、その真ん中に、青緑色の水をたたえた湖がありました。
その昔、蔵王がふん火した時にできた火山湖です。