マガモの群れが去ってしまうと、オイボレは、湖の上を、ぐるぐる、飛びました。
太陽王がどこにいるかなど、見当もつきません。
でも、確かに、近くにいる気がしました。湖の神秘的な色がそんな気にさせるのかもしれません。
水は、ところどころ、群青色だったり、明るいるり色だったりしますが、マガモが言った通り、生き物のいる気配はまるでありません。
それでいて、何か大きなけものがひそんでいるかのように、水底に、暗いかげが横たわって見えるのでした。
「太陽王! 太陽王!」
オイボレは呼びかけました。
「どうか、私を食べてください! あなたに食べられるために、やっと、ここまでやって来たんです。もうすぐ、私は力つきます。その前に、どうか、どうか・・・」
湖は、しんとして、ギラギラと、太陽を映しているばかりです。
オイボレは、弱々しく羽ばたいては、落ちないように、つばさを、せいいっぱい、広げました。
それでも、体は、だんだんと、湖の方へ、沈んで行きます。
「太陽王・・・」
もう、声も、思うように出ません。
この時、ふと、オイボレは、自分が何かのかげの中にいることに気がつきました。
見上げると、自分をおおう一対のつばさがありました。
風切羽をふくらませ、尾羽をおおぎ形に広げて、それは、太陽を背に、金色にかがやいていました。
「ああ、太陽王様! どうか、私を食べて・・・」
最後まで言わないうちに、すっかり力つきたオイボレは、小石のように、落ちて行きました。
その体が、ポチャンと、水面に落ちたしゅん間、力強いかぎづめが、がっしりと、オイボレをつかみ、空のかなたへと持ち去りました。