オイボレが蔵王に旅立った日の夜、仙台には冷たい雨が降りました。
雨は数日間、降り続き、その間に、気温は、どんどん、下がっていきました。
それから、また、ぱあっと、晴れわたった時、ケヤキ並木はカラフルな金茶色に、イチョウ並木は目の覚めるような黄色に変わりました。
ペデストリアン・デッキでは、花だんのカエデが、赤く、燃え上がろうとしています。
何日か家を出なかったチェシャは、久しぶりのお天気に、ペデストリアン・デッキを散歩していました。本当のところ、相変わらずさわがしいハトたちの間に、年老いたハトの姿を探していたのです。
「オイボレ君、無事に蔵王に着いて、太陽王に食べてもらえたかなあ? それとも・・・」
チェシャは、ひょっとしたら、蔵王に行くことに失敗したオイボレが、ここにもどって来ているかもしれないと考えていたのです。
でも、いくら探しても、オイボレの姿はありません。
チェシャは、少し、後悔していました。
「ずいぶん、弱っていたよなあ、オイボレ君」
蔵王に着く前に力つきて、今ごろは、どこかの森の冷たい地面にころがっているかもしれない。
自分は、もっと強く、止めるべきだったのかもしれない。
そんなことを考えると、チェシャの心は、ちくんと、痛みました。