その時、ハトたちが、何かにおびえて、いっせいに、飛び立ちました。
ハトだけではありません。
ペデストリアン・デッキを歩く人間たちの間にも、さわぎが起こりました。
「うわ! 何だ、あれ!?」
デッキの手すりに、トンビに似た、でも、トンビよりはるかに大きい鳥が、空から、さっと、まい降りたのです。
「猛禽(もうきん)だ! ワシだよ! イヌワシだ!」
「えっ、こんな町中に!? めずらしい!」
立ち止まった人間たちは、いっせいに、シャカー、シャカーっと、カメラのシャッターを切りました。
それから、すぐに、その手すりの真下で動けなくなっているネコを見つけて、もっと、さわぎ出しました。
「大変だ、ネコがねらわれている!」
「早くにげるんだよ、ネコちゃん!」
ワシがデッキの手すりに降りたしゅん間、チェシャはこおりつきました。
そのするどい目は、はるか上空からでも、小さなネズミを見分け、がんじょうなかぎづめは子牛さえ持ち上げることでしょう。
金色の羽毛の何と美しいこと! そんじょそこらのトンビやカラスとは大ちがい。
まぎれもない偉大なハンターです。
「あいつ、ぼくをねらっている!」
チェシャは、ぴりぴりと、張りつめました。
「下手に動けば、ひとたまりもない。あっという間に、あのつめにやられてしまうぞ」
チェシャは、じっと息を殺して、ワシの様子をうかがいました。
チャンスがあったら、そばの植えこみに飛びこむつもりでした。運がよければ、それで命拾いできるかもしれません。
でも、それは、すれすれ、ぎりぎりの、とても危険なかけに思えました。
ともあれ、ワシが見事な細工物のような羽を、ゆっくり、開き始めた時、
「今しかない!」
と決心したチェシャは、植え込みにジャンプしようとしました。そのしゅん間、
「チェシャ」
と、声がしました。
チェシャは、はっとして、ワシを見上げました。
「あれ? 君なのかい、オイボレ君?」
イヌワシは、ヒョコッと、首をかしげ、ポポポッと、笑ったのでした。