「おれが悪いような言い方すんじゃねえよ。お前が悪いだけだろう。何でそんな簡単なこともできないんだ?」
となりの部屋から、結那にも声が届きます。
結那の足は、がくがくとふるえだしました。
あやまりつづけるお母さんの声と、かわいた、パシン、パシンという音が、家の中をふるわせます。
私が、悪パンダをお母さんにあげたから、お母さんが・・・。お父さん、お父さん、おねがい。悪パンダにならないで。
結那が必死に祈っていると、扉がうっすらと開きました。
「・・・結那、これでお父さんが好きなもの、わかるよね、買ってきてくれる?」
お母さんの白い手が、かすれた声といっしょに、扉から出てきました。その手には、古びたがま口がにぎられていました。
結那はかけよると、お母さんを引っ張り出そうと、ぎゅっと手をにぎりました。
しかし、お母さんの手は、がま口を結那にたくすと、また部屋の中にもどっていきました。
「早くな~」
扉ごしに聞こえる、お父さんののんびりした声が、追い打ちをかけます。
結那は、涙でかすみそうになる目を見開くと、家から飛び出しました。