バイバイパンダパン(2/4)

文と絵・満月詩子

「おれが悪いような言い方すんじゃねえよ。お前が悪いだけだろう。何でそんな簡単なこともできないんだ?」
となりの部屋から、結那にも声が届きます。
結那の足は、がくがくとふるえだしました。

あやまりつづけるお母さんの声と、かわいた、パシン、パシンという音が、家の中をふるわせます。
私が、悪パンダをお母さんにあげたから、お母さんが・・・。お父さん、お父さん、おねがい。悪パンダにならないで。

結那が必死に祈っていると、扉がうっすらと開きました。
「・・・結那、これでお父さんが好きなもの、わかるよね、買ってきてくれる?」
お母さんの白い手が、かすれた声といっしょに、扉から出てきました。その手には、古びたがま口がにぎられていました。

結那はかけよると、お母さんを引っ張り出そうと、ぎゅっと手をにぎりました。
しかし、お母さんの手は、がま口を結那にたくすと、また部屋の中にもどっていきました。

「早くな~」
扉ごしに聞こえる、お父さんののんびりした声が、追い打ちをかけます。
結那は、涙でかすみそうになる目を見開くと、家から飛び出しました。

満月 詩子 について

(みつき うたこ) 佐賀県生まれ、在住。学校図書館勤務を経て、福祉関係の仕事に就く。現在は、仕事以外に、ボランティア活動なども行いながら、絵本や児童書の創作を続けている。日本児童ペンクラブ、日本児童文芸家協会会員。 2012年、『その先の青空』で、第15回つばさ賞、佳作に入選 おもな著作に、『さよなら、ぼくのひみつ』【『さよなら、ぼくのひみつ』(国土社)に収録】。『たまごになっちゃった?!』【佐賀県DV総合対策センター発行】、『あかいはな」』【『虹の糸でんわ』(銀の鈴社)に収録】などがある。