そんなある日の日ぐれ前のこと。
げんかんを飛び回るのにいそがしいピイを置いて、秋斗が外へ虫を取りに行こうとした時のことだった。
サンダルをはいて戸を開けると、秋斗の耳のそばをヒュッと何かが飛び抜けていった。
何かではない。
もちろんそれは――。
「ピイ!」
視線(しせん)でしか追いかけられなかった。弾丸(だんがん)のように飛び出したヒナが、あちこちにぶつかりながら遠くを目指して飛んで行く。
「ダメだ! ピイ!」
むじゃきでこわいもの知らずの子スズメに、引き止める言葉が通じるはずもない。秋斗はドアに手をかけて、ぼうぜんと立ち尽くすしかなかった。
「どうしたの秋斗」
さわぎを聞きつけたお母さんがげんかんにかけつけると、秋斗は声にはじかれたようにお母さんを見た。
「ピイが・・・」
「外ににげちゃったの? まだ巣立つには――」
言いかけたお母さんは、顔色を失った秋斗を見て口をとじた。
あっけない別れだった。