◆森の静けさに救われたことから
どうやら森の音は、ここにすべて閉じこめられてしまったようです。中庭で出会ったフォッグ氏は、それらのビンを「わたしのコレクション」だと自慢します。中庭には、こだまの弟の姿もありました。
フォッグ氏は、季節の精を招いて、お茶会を開くところでした。弟が見つかってホッとしたこだまとリリも、お茶をいただくことに。やってきた春夏秋冬の精たちは、口々に「森から音が消えた」寂しさを訴えます。それを聞いたフォッグ氏は、ついに真情を吐露。「不公平ではありませんか。わたしだけが音のない、しずんだ森で暮らさなければならないなんて」
でもーーー。それはフォッグ氏のひがみに過ぎません。リリは、始めから『森のずかん』の霧深い風景に魅かれていたし、季節の精たちも霧が無ければ暮らしが成り立ちません。霧は、心を落ち着かせ、その静けさは物事を深く考えるのにうってつけなのです。フォッグ氏はコレクションを解放。森に音が戻り、リリも本から現実へ。そして図書館で、友だちに誘われた時、リリは自然にうなずいていたのでした。
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この絵本は、著者が愛猫を亡くした時、森の静けさに救われたことから着想を得たそうです。
フランスにお住まいの著者が、森の音と日本独特のオノマトペを重ね、目で見える“森のささやき”を描いてくれました。
抑えた色味も素敵な、大人が読んでも清々しい気持ちになれる絵本です。ほら、風の音がサヤサヤと聞こえてきませんか?