でも、間もなく、大臣たちが心配していたことが起こりました。となりの国から戦争の使者がやってきたのです。
「農夫のせがれが国王だと。そんな国は、ひねりつぶしてやる!」
と、となりの国王が、国境まで軍隊を進めてきたのです。
「ハンス王に国を守る力など、あるだろうか」
青くなっている大臣たちをしり目に、使者は、ハンスに向かって、大声で、となりの国王からの手紙を読み上げました。
「余は、なんじの国に宣戦布告をするものなり。そっこく、降伏せよ。さもなくば・・・」
ところが、使者が手紙を読み終わる前に、ハンスは王座からとび下り、
「なんだと! この国を攻めるだと。そんなこたあ、許さねえ」
と、剣をつかんで、かけ出しました。
「お待ちください、ハンス王! まだ、口上の途中でございます」
使者はあわててしまいました。
「王さま、まずは、作戦会議を開きませんと」
大臣たちも止めました。
王や騎士たちの間では、戦争を始めるにも、終わるにも、いろいろと、めんどうなルールやしきたりがありました。でも、農民のハンスに、そんなことは分かりません。
「となりの国王だか、だれだか、知らねえが、おらが追ん出してやる」
馬に飛び乗ったハンスは、わき目もふらずに、どんどん、走って行きました。王さまが、そんなふうにかけて行くものですから、兵隊たちも、
「それっ。王さまに続け」
と、ばらばらに、馬に乗ったり、走ったりして、あとに続きました。
それを見た農民たちは、
「おらたちのハンスが戦に出て行くだ。おらたちも、いっしょに、土地を守るだ」
と、くわやこん棒を持って追いかけました。町の人々も、包丁やフライパンを持って、わあわあと、あとに続きました。