『フカシギ系。①しゃべる犬』でデビューし、たくさんの作品を上梓されている、たからしげるさんに就職した出版社や新聞社のこと、作品を書くきっかけなどを綴っていただきました。
気づいたときは作家になっていた
◆バンドでドラム担当に
わたしが児童書などを書く作家になったのは、いつごろからだったでしょうか。
子どものころは、ものを書くのが好きでもなければ、きらいでもありませんでした。おもしろい本を読むのは好きでしたが、かといって、本がなければ一日も過ごせない、というほどの本好きでもありませんでした。
本を読まなくても野球をしたり、自転車に乗ったり、テレビをみたり、友だちと会ったり、ゲームをしたり、音楽をきいたりして、たちまち一日がすぎていました。
中学、高校時代は、バスケットボールに夢中になりました。部活の練習に明け暮れる毎日でした。途中から楽器の演奏に興味をもって、ピアノがひけたらな、と思いました。でも、ピアノは家になかったので、友だちから古いギターを借りて弾き始めました。
だれかが、バンドを組もうぜ、といったとき、ギターを弾く人はたくさんいたのに、ドラムをたたく人はいませんでした。ギターが一番へただったわたしが、ドラムの担当になりました。
大学生になると、なぜか演劇部に入ってへぼ役者をやりながら、バンドも組んで、ドラムをたたき続けました。そのあいだ、好きな本をかたっぱしから読み始めました。また、自分でも短い物語を書くことがありました。
でも、物語はただ、自分で書いて読んで楽しむだけものでした。もっといい作品を書いて、いつか作家になってやろうなどとは思いませんでした。まわりにある本はおもしろいものばかりで、これだけたくさんおもしろい本があれば、わざわざ自分で書かなくてもいいじゃないか、と思っていたからです。