「イチョウさんは大したもんだ。あんなふうに子どもを本当の意味で喜ばせることが出来るのはイチョウさんしかいないだろう。それというのもイチョウさんが美しいからだよ。またイチョウさんの優しさに自然と引き寄せられているからだよ」
イチョウはしばらく考えていました。イチョウは、ほめられたからといってそれをすぐに鵜呑(うの)みにするたちではなかったのです。
日はもう沈んでしまい雲は全部灰の色でした。
かわりに東の空に煌々(こうこう)としたまん丸の月が昇っていました。
イチョウがいいます。
「もしそうだとしても、わたし1本ではどうにもならなかったでしょう。この丘に小さなわたしだけが1本あっても寒々しいだけですもの。今日わかりましたのよ。わたしがこうして毎日を平穏(へいおん)に過ごせている理由。わたしが眠りにつく後に寝て、わたしが起きる前には起きていてくださるポプラさんたちのお優しい心持ちのおかげなんだと。きっとわたしその優しさをいただいていなければ、こんな自分ではないはずですわ。もっとしょうのない木になっていたことでしょう。ですからこどもたちを喜ばしているのは、元をたどれば本当はポプラさんたちなのですわ」